他国に学ぶ女性活躍(フランス編)

ジェンダーギャップ指数で日本よりも順位が良い他国の事例を通じて、女性活躍の有り方を探っていくシリーズの2回目です。筆者が大学、大学院時代を過ごしたフランス(ジェンダーギャップ指数2021において16位)の事例を現地で働く日本人女性へのインタビューを通じてご紹介します。

今回インタビューさせていただいたのは、パリの日仏経済交流委員会(CEFJ)の総代表を務めておられる富永典子(Carpentier-Tominaga Noriko)さんです。

当社は、CEFJの会員企業であり、昨年はテレワーク普及専門企業として、CEFJが行った初のオンライン月例会の運営をサポートさせていただきました。そのようなご縁から今回のインタビューが実現しました。

富永 典子(Carpentier-Tominaga Noriko)氏

フランス在住(在住歴15年)
日仏経済交流委員会(CEFJ)総代表

フランスの労働市場において、現在、女性の立場はどのような状況ですか?

普段仕事をする上で私自身あまり男性/女性を意識することはないのですが、改めて考えてみると、職場における女性の活躍は、日本よりもフランスの方が進んでいるように思われます。もちろん、日本での女性の活躍も同様だと思いますが、誤解を避けるために、次のように申し上げた方が良いのかもしれません。女性が活躍できる環境の整備が、日本よりもフランスの方が進んでいる、と。それは保育施設の数から始まり、女性の取締役会に占めるパーセンテージの設定までを含む制度面、また文化背景・メンタリティの違いなど様々な要因があるのは周知のことです。

現在、日仏経済交流委員会(以下CEFJ)というフランスの経済組織で担っている自分の役職(ジェネラル・デレゲート)ですが、同様の組織のこうしたポストに外国人が就任することは日本ではめったにないことかもしれません。もちろんフランスでも頻繁にあることではありませんが。私が当初戸惑ったこととしましたら、自分は女性なのに何故、ということではなく、「外国人の私が?しかも前任者は皆フランス人だったのに」という思いからでした。外国人として、文化や商習慣、考え方などの異なる国で、適応することができるかが大きなチャレンジでした。現在でも仕事場において、意識無意識下に文化のギャップ(否定的な意味ではなく)を感じます。仕事において感じることは、男女の相違から環境或いは人の反応よりも、まずは言語を含めたインタカルチャーの存在だと思います。そしてそれは私の仕事、つまり存在意義の一つだと思っております。

と、始めてしまいましたが、本日の話題は女性を取り巻く仕事の環境ですね。そちらに戻ります。性別問わずフランスでは権利を主張し声高に自分の要求を相手に訴える、或いはぶつける、という表現が良いかもしれません。女性も本当に主張・要求を頻繁にしているのを目の当たりにしては感心し、考えさせられます。そうした要求の積み重ねで、保育園は多く存在し待機児童は日本ほどはいませんし、子供の多い家庭には税金の優遇措置があるなど、社会制度そのものがしっかり整備され、子育て環境が日本に比して整っています。日本でも働き方改革のもと、企業では残業を減らしたり、ワークライフバランスの重視が進んでいるようですが、フランスの週35時間労働制は強力でしょう。全員が謳歌しているとは言いませんが、男女を問わず家事・育児と仕事の両立が日本と比してしやすいのもうなずけます。ただ、現状に甘んぜず、さらなる改善を望むのがフランス。いつも現状の是非を問いかけているように思われます。向上心の追及は文化の違いを問わず誰でもすべきことですが。

ジェンダー指数2021において、フランスは16位でした。日本の120位よりも圧倒的に良い結果でした。経済分野を見ても、日本の117位に対して、フランスは58位と大差がついています。富永さんはどのような点がこの差に繋がっていると思われますか?

数字だけを見て比較するのは、危ないことですが、確かに差がありすぎますよね。文化・個人の家庭環境の違いはあるとは言え、個人的にも女性にとっては、フランスの方が働きやすいかもしれません。もうかなり前ですが、日本への出張から帰国したフランス人女性から聞かれたことがあります。「なぜ日本の女性は家庭か仕事か選ばなければいけないのか?」家庭と仕事は、2つの全く異なるものであり、比較の対象にならない。本来両方を持つことができるはずなのに、なぜどちらか一方を選ぶ必要があるのでしょうか、と。フランスでは、「一応」整備された社会の仕組みのおかげで、子育てと仕事を両立することが可能なこと、が前提です。これに、フランス人の中に根付いている考え方や文化がプラスされて、数字の差に表れるのでしょうか?

家庭と仕事の両方を持つことは、ごく普通のことで、特に頑張っているキャリア・ウーマンと特別視をすることも今は無いと思います。仕事復職にあたり、解決しなければならないことは誰でも同じようにある、それが困難な時もあるかもしれませんが、社会の中に、解決策が大抵はある。仕事を辞めるという選択を迫られるのは稀かもしれません。

日本では産後の女性の職場復帰は、いつ頃でしょうか? フランスでは、比較的早く職場に戻ります。前述しましたように、保育園を見つけるのが日本ほど難しくないということもありますが、女性も仕事を持っているのは当たり前のことだと考える人が多いので、男性にとっても産後に妻が復職するのは自然なことであり、当然妻の復職をサポートしようと考えるのです。専業主婦に出会うことは珍しく、特に私の周りでは共働き家庭が多いので、家事や育児を夫婦で分担して行うのも一般的です。朝夕に子供を保育園や学校に送り迎えにいくのも母親だけの役目ではなく、逆にお父さんが子供を保育園に送り届けてから職場に向かう姿を日常的によく目にします。男性も育児をすることが当然になっている世代では、子育て休暇を取っている若い男性によく会います。テレワークで電話をすると、受話器の向こうで「本当は子育て休暇中なんだけれど」と言いながら質問に答えてくれ、こっちが申し訳ない思いになります。

今に日本でもこうした光景が普通になっていくような気がしますが、いかがでしょうか?先ほどの質問、日本とフランスにおける女性活躍の状況の差に繋がっている要因の一つが、こうした男性の子育て参加状況かもしれません。

フランスで女性がキャリアアップを目指すことは難しいですか?どのような障壁がありますか?

先ほどフランス人は主張、要求を多くすると言いましたが、フランス人はよく文句を言うことでも知られています。日本の状況をよく知っている私からすれば、フランス女性の働く環境は本当に恵まれていると思うのですが、それでも何か見つけてきて文句を言う。文句ばっかり言うというより、常にある向上心と受け止めるようにしています。
仕事と育児の両立は女性に求められることの方が多いだとか、男女間賃金格差、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントなどなどです。こうした基本的な重要な問題は、環境が良いように見えるフランスでもまだまだ山積み課題の一部にすぎません。

フランスにおいても、女性であることがキャリアアップをする上で障壁になることはもちろんあると思います。例えば、私自身スタートアップ支援推進プログラム(スタートアップ・クリエイティビティ・チャレンジ)に関わっておりますが、女性のユニコーン企業のトップがまだまだ少ないということ。女性に投資をする投資家がまだまだ少ないのでしょうか? もちろん、男女差だけでなく、そこにはビジネスプランや、人をまとめていく個人の能力が問われるのは同然ですから、女性という観点からのみ判断されるわけではないでしょうが。

ユニコーン企業とは・・・

「創業10年以内」、「評価額10億ドル以上」、「未上場」、「テクノロジー企業」といった4つの条件を兼ね備えたスタートアップ企業を指します。
ベンチャーキャピタルを始めとする投資家から、ギリシャ神話に登場する一角獣「ユニコーン」のように稀で、巨額の利益をもたらす可能性のある企業として注目されています。

フランスではこの10~15年の間に女性の活躍において、どのような進展がありましたか?

女性の活躍推進はフランスでよく議論されているテーマです。日本ではおよそ10年前に女性たちが、保育園不足について社会問題として取り上げられていた。今でも待機児童の数を減らすを目標にしている地域は多いと思います。フランスではそのさらに5年前、私がフランスに移住した当時(今から15年前)、すでに取締役会における女性割合の議論が活発に行われていました。これだけ見ても、日本との比較と言う観点で、フランスの状況がいかに進んでいるかが分かると思います。

先の話題(フランスでの障壁)にも関連していますが、フランスにはすでに多くの女性の役員がいますが、女性の「社長」は少ない。これがよく話題に上ります。特に大企業においてその傾向は顕著です。CAC40(上場トップの大企業グループ)に今は女性のトップ1人もはいません。以前は、世界最大の原子力産業複合企業であるアレヴァのCEOを務めていたアンヌ・ロベルジョン氏がいました。Keringの親会社のARTEMISの社長だったパトリシア・バルビゼ氏もしかり。フランス企業ではありませんが、欧州中央銀行総裁のクリスティーヌ・ラガルド氏がいます。彼女は閣僚経験を経て、IMFの専務理事になり、2年前から現職です。私にとってもロールモデル的存在です。

こうした人々は、もちろん、経営手腕やリーダーシップという面で、ダントツなのでしょうが、そこには、男女の別を超えて、だれもが認める人間的な大きさや、自然体であること、素直さが根底にあるのではと思います。そしてこうした女性たちは、とても素敵に女性らしくあり、男性と張り合う、或いは他人と比較するということを超えて、自分というものを持ち常に前向きにポジティブです。それは内向きに自分に対しても、そして外向きに自分以外の人間に対しても。日本にも、そして世界のどこにでも、必ずこうした人物は男女の別なく存在していると思います。

進展、という質問に対して、企業と仕事をしている立場から、企業の例ばかり取り上げましたが、実際、法曹界、メディア界、スポーツ界、芸術家、、、様々な分野で活躍する大きな女性の方々がいます。自分の能力を発揮できる社会は、フランスで実現しているのか、或いは他に比べフランスで実現し易いのかについては、私自身はっきり答えはありません。いずれにしても、今後ももっともっと良くなっていくと思います。なぜかというと、そうしたいと思う人が世代の変遷により、増えていくと思うからです。これは日本もフランスも同様です。

女性の活躍推進を考える時に、男性が関与しなければ始まらないという意見があります。フランスではどうでしょうか?

女性の活躍推進に関する男性の関与について考えると、公(社会や職場)、私(プライベート)2つの見方があると思います。

プライベートにおいては、当然のことですが、育った家庭環境やどのような教育を受けたか等により個人の考え方が異なるので、男性の関与度合いは様々です。私個人の身近な例で言うと、私の夫はフランス人ですが、4人兄弟で家庭の中に女性は母親1人という男性的な家庭環境で育ちました。しかし夫にとっては、妻である私が外に仕事に出ることは自然なことのようで、いつも応援してくれます。15年前に私たちが日本からフランスに移住してきた時のことです。移住前の数年間、私は日本での仕事がとても忙しかったのですが、移住を機にその仕事を辞めたので、フランスでは家のことをしながら少しゆっくりしようと思うと夫に伝えました。夫は反対こそしませんでしたが、「仕事をしないでじっといられないと思うよ」と言っていました。私としては束の間の休暇を楽しんだのですが、夫の言う通り案の定、その半年後には現在の仕事である日仏経済交流委員会からオファーをいただき働き始めることになり、それ以来、夫はいつもサポートしてくれています。

より良い社会を目指すには、男性と同様に女性の活躍の場も必要であり、フランス人の男性はその実現のためにとても努力していると感じます。本心からなのか、男性一人ひとりが、内心はどう思っているかまではもちろん分かりませんが、少なくとも表向きには「女性の上司は嫌だ」とか「特定の仕事を指して、これは女性の仕事だ」などと言う人はいませんし、私の回りには協力的な人が多いように思います。ただ、男性と一言で言っても、年代によって態度はまったく違うとも感じます。個人的に内心どう思おうと自由ですし。先ほど日仏経済交流委員会で進めているスタートアップ関連のプロジェクト(スタートアップ・クリエイティビティ・チャレンジ)について言及しました。若い世代の方々と仕事をする機会が多いのですが、彼らは本当に男女の垣根を持っていないように思います。これは日本でも同じだと思います。ですから今後、垣根はどんどんと低くなると思います。

最後に、フランスにおける女性活躍推進のために、富永さんが最も重要視していらっしゃることについて教えてください。

ここまでお話してきたように、フランスの状況はすでにかなり良いと思います。ここから先は、何か劇的な大きな変化を起こすという事ではなく、女性も男性もあと一歩、少しずつ、ジェンダーギャップを埋めるための取り組みに関与していけばいいのではないかと考えています。実は「少しずつ」と言ったのには意味があるのですが、ここからは日常的なこと、毎日の些細なことの積み重ねではないかと思っています。

このインタビューの冒頭でもお話しましたが、私は普段、仕事において相手が男性か女性かをあまり意識していません。男女関係なく一人の人間として、どんな相手に対しても敬意を示すことが大切だと考えています。それは、相手が若い方でも子供であっても同じです。よく女心が分からないとか、男心が分からないと言いますが、その通りです。男女は身体の作りが違うのですから、考え方や性質も違って当然だと思います。ですから、男性にも女性にも共通の一つのゴールがあっても、それにたどり着く方法は異なると思います。。人間は一人ひとりみんな違うという事を理解し、受け止め、敬意と思いやりを持って接することが、ジェンダーギャップを埋めていく事に繋がっていくのではないかと思います。こんなに男女は違うのに、分かち合うための努力をしているということを示す、そしてそれを相手がきちんと理解して受け止めることにより、お互い敬意の念を常に持つことができる。努力があっての自然体です。

富永さん、本日はありがとうございました。

終わりに・・・

フランスでは、社会の仕組みや制度が整備されていて、仕事と育児を両立しやすい環境であること、そしてすでに企業の役員レベルには多くの女性が活躍していて、次のターゲットは大企業の社長クラスの女性を増やすという高いレベルにまで状況が進んでいることが分かりました。

個人的には、フランス人女性が現状に甘んじず、自分たちに必要なことを声を上げて求めていくという話を聞いて、日本との違いを大きく感じました。また、女性が働くことが当たり前であり、そのために家事や育児を分担するのが普通だというフランス人の考え方が、女性活躍の鍵だというのは、本当にその通りだと思いました。

前回のチリ、そして今回のフランスの事例を探るインタビューを通じて、日本の女性活躍推進のヒントになるお話がたくさん伺えました。私たちは、今後も一企業として、日本における女性の活躍推進を進めていく活動に積極的に取り組んで参ります。

ライター

ハビエラ アソカル・エストラダ
株式会社イマクリエ
広報・マーケティング担当

チリ出身、東京在住。

日本語・スペイン語・英語・フランス語・ロシア語を操るマルチリンガル

2020年 ソルボンヌ大学(パリ)にて国際関係・海外行動学修士課程修了
大学院在学中にイマクリエのインターンシッププログラムに参加し、卒業後、2020年11月に正社員として入社。現在は広報・マーケティング業務を担当